みわたすかぎりの草原でした
一頭二頭と牛が産まれると
そこは牧場とよばれました
牛は子供のように戯れて
やがて大人になると柵を越えていきました
柵をこえずに残る牛もいました
牧場という言葉は人間が考えた言葉でした
みわたすかぎりの草原でした
祈り
牧場
鞄
雑音が聞こえる
鞄の中から
聞こえる声を聞きながら
母は呆けた
雑音が聞こえなければ
昔のような
声で母は話した
鞄の中から
雑音が聞こえると
途端に母は
声を濁らせる
呪われた
夜の日々が続いて
ついに母は卒倒した
そしてやすらかに
やすらかに眠りはじめた
夢の時計台
誰も知らない
丘の上に
時計台があった
誰も知らないから
動いても
止まっても
知らないのに
時計台は
時を刻み続けた
真夜中
僕らが見てる
夢の時を
正確に
刻んでいたのだ
傷口
沈黙に耐えられず
埋め尽くすからだろう
言葉で
たったひとこと
言えたなら
それだけでよかった
傷つけようのない
言葉と言葉が
塞ぎかけた
傷口を開いてしまう
包帯で巻いた
その奥で
傷口が
口になってしまう
本当の口は
かさぶたになって
閉じてるというのに
その海から(01~10)
「序詞」
ゆりかごの中で
小さな戦があった
理不尽な理由とプラントが
長い海岸線を覆いつくした
けたたましくサイレンが鳴り響き
その海から人は
眠りにつくだろう
01
鳥は籠の外にいた
人は籠の中にいた
籠は夕日
海はいつものように
言葉で濁っていた
屋根の鳥
焼け落ちた
羽がまた羽のように
はばたいてる
焼く前よりも羽らしく
空気をとらえ
空気におぼれながら
屋根の上に
鳥がいる
まだ飛べない
幼い鳥の声がする
途方にくれて
ありもしない
羽を動かす
もう飛ばなくてかまわない
僕らは何も言えなくて
ただ目を瞑ってる
言葉などいらない
汗をかいたので
洗濯して
ベランダに干す
ここは海が近いから
命の
匂いがする
書店で本を開いても
どれも白紙なので
選択は
できなかった
もう
言葉などいらない
ただ
洗濯物が乾くまで
じっと見てる
からだの一部だった
それを
じっと見てる
履歴書
冷蔵庫の中を
クジラが泳ぐ
今日は朝から
ジュースが飲めない
つけあわせの菜っ葉は
鮮やかに茹で上がり
わたしは指と指の間を
紙のようなもので
切ってしまった
+
その先に直売所はあった
日当たりの良いところで
年をとった女の人が
あやとりをしていた
誕生日
私が産まれたのは云十年前の今日
その日もやはり暑かった
大変な難産で、仮死状態で産まれてきたらしい
その日はどんなだったんだろうね
姉や兄なんかも、今か今かって
産まれるのを待っていたのかしら
父は当然まだか、まだか、って待ってたよね
数
羊とシーソー遊びをすると
いつも重い方が沈みました
両方が沈まないでいるのは
とても難しいことでした
わたしはまだ
言葉をよく知らなかったのです
+
眠れないときは羊を数えなさい
そう教えてくれた母は
羊飼いに恋をして
家を出て行きました
primer
今、入門書が熱い!
という情報を聞きつけ
俺は師走の街をかっ飛び
かっとーび
許されるならすべてを散財し
強弱も忘れずに
強も弱も
俺の大切な兄たちたちが教えてくれたよ
引き連れて
強も弱も沢山
ひきつれーって
ブックストアーへ
広大な空間!ブックストアーへ
揚子江のほとりで
揚子江のほとりで
あなたは生きてください
わたしは揚子江の様子は知らないけれど
多分あなたも同じくらいに知らないでしょうけれど
揚子江のほとりにも花は咲くでしょう
この年になっても花の名前はわからないので
うまく教えてあげられません
揚子江のほとりから離れたところで
制度(制度)
簡単な申請をして
小さなお役所のソファーで
僕らは順番を待ってる
制度はいつも公平で
人に優しい
前に座っている子供が
しきりに咳きこみ
母親と思しき人が
その背中をさすっている
僕らは待ってる
君の手を握ると
届くものと届かないものとがあって
その愛しさに
制度(角を曲がる)
今日は朝から
角を曲がる犬にたくさん会った
いま目の前を歩いているこの犬も
やがては角を曲がるのだ
君にその話をすると
頷きながら聞いてくれたけれど
僕がどれくらいの角を曲がってきたのかは
うまく説明できなかった
僕らいったいいつまで
命の真似事をしてるんだろう
制度(悲しみと喜び)
脊椎動物として生きる
その悲しみ
そして
珍しく雪が降った
朝の喜び
もし君が生まれてきたら
おもいっきり抱きしめて
そんなことのいくつかを
教えてあげたい








