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たもつのノート

その海から(01~10)

「序詞」

ゆりかごの中で
小さな戦があった

理不尽な理由とプラントが
長い海岸線を覆いつくした

けたたましくサイレンが鳴り響き

その海から人は
眠りにつくだろう
 

01

鳥は籠の外にいた
人は籠の中にいた

籠は夕日

海はいつものように
言葉で濁っていた
 
 

履歴書

冷蔵庫の中を
クジラが泳ぐ
今日は朝から
ジュースが飲めない
つけあわせの菜っ葉は
鮮やかに茹で上がり
わたしは指と指の間を
紙のようなもので
切ってしまった
 
 
+
 
 
その先に直売所はあった
日当たりの良いところで
年をとった女の人が
あやとりをしていた

 
 
羊とシーソー遊びをすると
いつも重い方が沈みました
両方が沈まないでいるのは
とても難しいことでした
わたしはまだ
言葉をよく知らなかったのです
 
 
+
 
 
眠れないときは羊を数えなさい
そう教えてくれた母は
羊飼いに恋をして
家を出て行きました

primer

 
 
今、入門書が熱い!
という情報を聞きつけ
俺は師走の街をかっ飛び
かっとーび
許されるならすべてを散財し
強弱も忘れずに
強も弱も
俺の大切な兄たちたちが教えてくれたよ
引き連れて
強も弱も沢山
ひきつれーって
ブックストアーへ
広大な空間!ブックストアーへ

揚子江のほとりで

揚子江のほとりで
あなたは生きてください
わたしは揚子江の様子は知らないけれど
多分あなたも同じくらいに知らないでしょうけれど
揚子江のほとりにも花は咲くでしょう
この年になっても花の名前はわからないので
うまく教えてあげられません
揚子江のほとりから離れたところで

制度(制度)

 
 
簡単な申請をして
小さなお役所のソファーで
僕らは順番を待ってる
制度はいつも公平で
人に優しい
前に座っている子供が
しきりに咳きこみ
母親と思しき人が
その背中をさすっている
僕らは待ってる
君の手を握ると
届くものと届かないものとがあって
その愛しさに

制度(角を曲がる)

 
 
今日は朝から
角を曲がる犬にたくさん会った
いま目の前を歩いているこの犬も
やがては角を曲がるのだ
君にその話をすると
頷きながら聞いてくれたけれど
僕がどれくらいの角を曲がってきたのかは
うまく説明できなかった
僕らいったいいつまで
命の真似事をしてるんだろう

制度(悲しみと喜び)

 
 
脊椎動物として生きる
その悲しみ

そして
珍しく雪が降った
朝の喜び

もし君が生まれてきたら
おもいっきり抱きしめて

そんなことのいくつかを
教えてあげたい
 
 

制度(街)

 
 
ランドセルから鉄屑をまき散らし
小学生たちが歩いていく
賞味期限が切れて
生温くなった答案用紙を
噛み砕きながら
テレビで見るホームレスも
ここにはいない
家がなければ居てはいけない
なんて息苦しい
と言えば
君が笑う気がする
やがてみんな息をしなくなるのよ

制度(閉園、そして帰り道)

 
 
檻の中には
消しゴムがひとつあった
動かなかった
夜行性
と書かれていた
夜まで待ちたい
君は言ったけれど
その前に
閉園時間になってしまった
帰り道、赤信号で止まった
右左よく見て
二人で走って渡った
 
 
 

制度(教室)

 
 
鉛筆を指で回す君
鉛筆に指を回される僕
色の付いた服を着ている先生
お花畑の隣にある工場でつくられた黒板
下手糞なうそ
という言い訳

筆箱を空けると
いつもそこには青い空が広がっていた

みんなみんな
明日卒業です
 
 
 

制度(駐輪場)

 
 
僕と同じ温度を保って
こぎ続けられた自転車が
雨を避けておさまってる

一匹の虫がサドルから落ちた
葉っぱしか食べられない虫
それ以外に見当がつかない

貼紙に書かれた
「駐輪場使用に当たっての注意事項」より
僕はきっと速く走ることができるはずだ

制度(スーパーマーケット)

 
 
一晩中齧り続けていたんだろう
プラスチックの値札にたくさんつけられた
君の歯型

僕は茹でたカニをリュックにつめながら
君に謝る言葉を考えてる

遠く列の先では
レジ係の人が自分の仕事に忙しい
煩雑な手続きが多すぎて
「切ない」までたどりつけない
 
 

制度(駅の周辺)

 
 
改札口の向こうで
ピアノに蟻が集っている
きっと甘いんだろう

ハモニカを忘れてきた駅員が
時刻表に小さな落書をする
間もなく秋が来るのに
量が足りてないのだ

まだ君と僕とが出会う前の話
もしかしたらこれからも
出会わないかもしれない
 
 

制度(タクシー)

 
 
コンビニのレジから
僕らのタクシーがあふれ出すから
春はまた息苦しい

行き先も告げずに乗ると
君の家を通過して
犬小屋の屋根を壊してしまう

料金を体温で支払う
少しのおつりが返ってくる
手をつないだだけで伝わるなら
僕らは生まれてくる必要などなかった
 
 

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